バーゼル条約とは何か――なぜ廃棄物の輸出入には「相手国の同意」が必要なのか

使い終わった電子機器、廃プラスチック、金属スクラップ、廃基板、使用済みバッテリー。

これらは国内で処理されるだけでなく、再資源化やリサイクルを目的として国境を越えて取引されることがあります。

しかし、「リサイクルするために輸出するのだから問題ない」とは限りません。

廃棄物が国境を越え、処理能力や環境管理が十分でない地域へ流れれば、輸出国では見えなかった環境汚染や健康被害が輸入国で発生する可能性があります。

こうした有害廃棄物等の国境を越える移動と処分を国際的に管理するために設けられたのが、バーゼル条約です。

そして現在、バーゼル条約が対象とする問題は、従来型の「有害廃棄物」だけではありません。

2021年にはプラスチック廃棄物に関する規制が強化され、2025年1月からは電気・電子機器廃棄物(e-waste)の規制範囲も拡大しました。

今回は、バーゼル条約を単なる廃棄物輸出規制としてではなく、「何を国境の外へ動かしてよいのか」を判断する国際的な仕組みとして読み解きます。

BACKGROUND

バーゼル条約は、なぜ生まれたのか

バーゼル条約の正式名称は、「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」です。

1989年3月22日にスイスのバーゼルで採択され、1992年5月5日に発効しました。

その背景には、1980年代に問題となった有害廃棄物の国際移動があります。

廃棄物処理に厳しい環境基準や高いコストが求められる国から、処理能力や規制体制が十分ではない国へ有害廃棄物が輸出される。

輸出国にとっては「廃棄物を国外へ出す」ことで問題が見えにくくなりますが、輸入国では不適切な処理によって土壌、水、大気の汚染や健康被害につながる可能性があります。

バーゼル条約は、このような有害廃棄物等の発生、管理、国境を越える移動、処分による人の健康と環境への悪影響を防ぐことを目的としています。

重要なのは、条約の考え方が単純な「輸出禁止」ではないことです。必要な条件を満たした越境移動まで一律に禁止するのではなく、何を、どこへ、どのような方法で移動させ、どのように処理するのかを管理する仕組みになっています。

PRIOR INFORMED CONSENT

基本は「勝手に送らない」――PICという考え方

バーゼル条約を理解するうえで重要なのが、PICです。

KEYWORD

PIC

Prior Informed Consent

「事前の情報に基づく同意」を意味します。

規制対象となる廃棄物をある国から別の国へ移動させる場合、輸出国側から事前に情報を通知し、輸入国などの関係国から必要な同意を得たうえで移動させることが基本となります。

考え方は非常にシンプルです。

「これはリサイクル原料だから大丈夫だろう」

「価値がある物だから廃棄物ではない」

「相手企業が受け入れると言っているから問題ない」

と、廃棄物を送る側だけで判断して国境を越えさせるのではありません。

何が運ばれるのか。どのような性状を持っているのか。どこでどのように処理・再生されるのか。

こうした情報を関係国が把握したうえで、越境移動を管理するのがバーゼル条約の基本的な考え方です。

ここは、特定の有害化学物質の国際貿易を管理するロッテルダム条約との違いでもあります。ロッテルダム条約が特定の化学物質や農薬の国際取引におけるPICを扱うのに対し、バーゼル条約では有害廃棄物等の越境移動が対象になります。

WASTE OR PRODUCT?

そもそも「廃棄物」なのか

企業実務で難しいのは、条約の名前を知ることではありません。

目の前にある貨物が、そもそも規制対象となる「廃棄物」に該当するのかを判断することです。

例えば、海外へ送る電子機器を考えてみます。

✓ 正常に使用できる中古製品として再使用するために輸出するのか

✓ 故障しているが修理して再使用するのか

✓ 部品取りを目的としているのか

✓ 金属や樹脂を回収するための原料なのか

✓ すでに使用できず、最終的に処分するものなのか

見た目が同じ電子機器でも、その状態や目的によって意味は変わります。

さらに、金属スクラップやプラスチックの場合も同じです。

「売買価格がある」「資源として利用できる」という理由だけで、必ず廃棄物ではなくなるわけではありません。

実際の判断では、貨物の状態、混入物、汚染、処理方法、輸出入国の法制度などを確認する必要があります。

バーゼル条約対応で最初に問われるのは、「どの有害物質を測るか」ではなく、「この貨物は何なのか」という分類です。

PLASTIC WASTE

廃プラスチックは2021年から管理が強化された

バーゼル条約は、新しい廃棄物問題に合わせて附属書を改正してきました。

その代表例がプラスチック廃棄物です。

2019年のCOP14では、プラスチック廃棄物に関する附属書II、VIII、IXの改正が採択され、2021年1月1日から新しい分類が適用されています。

ここで重要なのは、「すべての廃プラスチックが同じ扱いになった」わけではないことです。

有害性を持つ
プラスチック廃棄物

特定の条件を満たす
非有害の廃プラスチック

その他の
プラスチック廃棄物

というように、性状や混合状態、リサイクル方法などによって扱いが異なります。

例えば、一定の条件を満たす単一ポリマーの廃棄物や、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)の特定の混合物については、環境上適正な方法で各材料を分別してリサイクルすることや、他の廃棄物による汚染がほとんどないことなどが重要になります。

「プラスチックだから規制対象」「プラスチックだから対象外」という単純な仕分けではありません。何が混ざっているか、どの程度汚れているか、どのようなリサイクル工程へ送るのかといった貨物の実態が重要になります。

E-WASTE

2025年、e-wasteの管理が大きく変わった

現在のバーゼル条約を理解するうえで、もう一つ重要なのが電気・電子機器廃棄物、いわゆるe-wasteです。

KEYWORD

e-waste

使用済みの電気・電子機器や、その部品などから生じる電気・電子機器廃棄物を指します。

2022年のCOP15では、e-wasteに関する附属書II、VIII、IXの改正が採択されました。

この改正は2025年1月1日から効力を生じています。

大きなポイントは、これまで規制対象となっていた有害なe-wasteだけでなく、非有害な電気・電子機器廃棄物についても規制対象が拡大されたことです。

2025年1月から、電気・電子機器廃棄物の越境移動について、より広くPIC手続による管理が行われることになりました。

対象になり得るのは、完成した電子機器だけではありません。

廃基板、電子部品、ケーブル、機器スクラップなど、実際の貨物には複数の材料や部品が混在する場合があります。

日本でもこの附属書改正に対応し、2025年1月1日から国内制度が改正されています。環境省は「電気及び電子機器廃棄物の輸出入に係るバーゼル法該非判断基準」を策定し、具体的な貨物が規制対象に該当するかを判断するための基準を示しています。

USED GOODS OR WASTE?

「中古品」と「廃棄物」の境界が重要になる

e-waste問題で企業が特に注意したいのが、中古製品との境界です。

例えば中古のパソコンや設備を海外へ輸出するとします。

正常に機能し、そのまま再使用される製品であれば、「中古品」としての取引になる可能性があります。

しかし、破損している。主要部品が欠けている。大量に混載されている。実際には部品回収や資源回収が目的になっている。

こうした場合は、単にインボイスへ「Used Equipment」と記載すれば中古品になるわけではありません。

その貨物が本当に再使用される製品なのか、それとも廃棄物なのかという実態が問われます。

この点は、サーキュラーエコノミーの拡大とともに、さらに重要になります。

再使用、修理、リファービッシュ、部品回収、材料リサイクル。

製品寿命を延ばし、資源を循環させる選択肢が増えるほど、「製品」と「廃棄物」の境界を正しく判断する必要があるからです。

JAPAN

日本では「バーゼル法」だけを見ればよいわけではない

日本は1993年9月にバーゼル条約へ加入し、同年12月16日から日本について条約が効力を持ちました。

国内では、「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律」、いわゆるバーゼル法によって条約への対応が行われています。

ただし、実際の廃棄物輸出入ではバーゼル法だけを確認すればよいわけではありません。

対象となる貨物によっては、廃棄物処理法や外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく手続も関係します。

さらに国際輸送である以上、輸入国や通過国側の規制も確認する必要があります。

日本側では輸出可能に見えても、相手国が輸入を禁止している、あるいは独自の規制対象としている可能性もあります。

✓ 何を輸出するのか

✓ 製品なのか、廃棄物なのか

✓ バーゼル法上の特定有害廃棄物等に該当するのか

✓ 輸出先国・通過国ではどのように分類されるのか

✓ どの施設で、どのような処理・再生を行うのか

✓ 必要な通知、同意、承認等があるか

TESTING & COMPLIANCE

「分析すればバーゼル対応できる」わけではない

TICの観点から見ると、ここにも重要なポイントがあります。

バーゼル条約対応を「有害物質分析」の問題だけとして捉えると、判断を誤る可能性があります。

もちろん、貨物にどのような物質が含まれているかを確認するため、化学分析が必要となるケースはあります。

例えば重金属や特定の有害成分、汚染状態などを把握することが、貨物の分類や有害性判断の一部として重要になる場合があります。

しかし、試験結果だけで、

「これは廃棄物ではない」

「輸出してよい」

「PICは不要である」

と判断できるとは限りません。

実際には、貨物の性状、利用目的、再使用の可能性、処理方法、混合状態、相手国の制度など複数の情報を組み合わせて判断します。

ここではTestingだけでなく、Inspection、書類確認、サプライチェーン情報、法規制の確認が組み合わさります。

COP17

2025年COP17――対象はさらに「廃棄物の管理」全体へ

2025年に開催されたバーゼル条約第17回締約国会議(COP17)では、新たな戦略枠組みやPIC手続の改善に関する勧告などが採択されました。

また、近年改正されたe-wasteやプラスチック廃棄物について、環境上適正な管理を進めるための対応が引き続き議論されています。

さらに、使用済み繊維や繊維廃棄物の国際移動についても新たな検討が始まりました。

附属書IVの処分作業に関する改正もCOP17で採択されています。事務局の最新情報では、この改正は2030年1月1日の発効を予定しています。

バーゼル条約は、1989年に作られた制度がそのまま固定されているわけではありません。

プラスチック
e-waste
使用済み繊維
バッテリー

そして新しいリサイクルや資源循環の形。世界の廃棄物と資源循環の変化に合わせて、その管理対象や考え方も更新されています。

TICNOLOGY JAPAN VIEW

国境を越える貨物の「実態」をどう把握するか

バーゼル条約を理解するとき、最も重要なのは「有害廃棄物のリスト」を覚えることではありません。

企業が最初に確認すべきなのは、

国境を越えようとしているその貨物は、製品なのか、再利用される資源なのか、それとも廃棄物なのか

という点です。

バーゼル条約は、有害廃棄物等の越境移動を管理する制度ですが、現在では廃プラスチックやe-wasteまで対象が広がり、資源循環や国際物流の実務とも密接に関係しています。

特にサーキュラーエコノミーが進む中では、使用済み製品や材料を海外へ送り、再使用、修理、再製造、部品回収、材料リサイクルを行うケースも増えていきます。

しかし、「リサイクル目的」「中古品」「有価物」という説明だけで、自由に国境を越えられるとは限りません。

✓ 貨物が製品か廃棄物か

✓ どのような成分・性状を持つか

✓ 何が混入しているか

✓ どのような目的で輸出されるか

✓ 輸出先でどのように処理・再利用されるか

✓ 輸出国・輸入国・通過国でどのような手続が必要か

を一体として確認する必要があります。

ここではTestingだけで判断できるとは限りません。

成分や有害性を確認する分析が必要な場合もあれば、Inspectionによる貨物の状態確認、写真や仕様書、契約書、処理工程、再使用可能性などの情報確認が重要になる場合もあります。

つまり、バーゼル条約対応の中心にあるのは「何を測定するか」ではなく、その貨物の実態を正しく把握し、適切に分類することです。

2021年には廃プラスチック、2025年にはe-wasteの規制範囲が拡大しました。今後も資源循環の形が変化すれば、製品と廃棄物の境界を正しく説明できることの重要性はさらに高まります。

バーゼル条約は、資源循環を止めるための制度ではありません。

資源や廃棄物を国境の外へ動かすのであれば、その移動先と処理まで把握し、関係国のルールの中で管理する。この考え方を理解することが、バーゼル条約対応の出発点です。

本記事について

本記事は、2026年9月3日時点で確認できるバーゼル条約事務局、環境省等の公式公開資料をもとに、TICnology Japanが独自に整理・分析したものです。

バーゼル条約上の分類と、日本を含む各国・地域の国内法上の分類や輸出入手続は必ずしも同一ではありません。実際の貨物については、貨物の状態、組成、用途、輸出国・輸入国・通過国の制度等を踏まえて最新の公式情報を確認する必要があります。

本記事にはTICnology Japanによる分析・考察を含みます。特定企業、製品、サービス、取引または輸出入を推奨するものではありません。

情報基準日:2026年9月3日

主な参考資料

Secretariat of the Basel Convention, Basel Convention on the Control of Transboundary Movements of Hazardous Wastes and their Disposal

Secretariat of the Basel Convention, Basel Convention Plastic Waste Amendments

Secretariat of the Basel Convention, E-waste Amendments

Secretariat of the Basel Convention, Decisions adopted by the seventeenth meeting of the Conference of the Parties

Ministry of the Environment, Japan, 「廃棄物・特定有害廃棄物等の輸出入」

Ministry of the Environment, Japan, 「電気及び電子機器廃棄物の輸出入に係るバーゼル法該非判断基準」

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