2026年11月22日、LC-PFCAとその塩、LC-PFCA関連物質、クロルピリホス、中鎖塩素化パラフィン(MCCP)が、化審法の「第一種特定化学物質」として新たに規制されます。
今回の改正は、単に「規制物質が増える」という話ではありません。物質そのものだけでなく、輸入製品やサプライチェーン管理まで企業実務に影響する可能性があります。
本記事では、2026年11月に何が変わるのかを入口に、そもそも化審法とは何なのか、なぜこの制度が生まれたのか、そして企業は具体的に何を確認すべきなのかまで順番に解説します。
まず何が起きるのか――2026年11月22日の規制強化
2026年5月、化審法施行令の改正が決定されました。
今回、第一種特定化学物質として新たに指定されるのは、次の物質群です。
・LC-PFCAとその塩
・LC-PFCA関連物質
・クロルピリホス
・MCCP(中鎖塩素化パラフィン)
公布日は2026年5月22日で、主要な規制は2026年11月22日に施行されます。
LC-PFCAは、PFASと呼ばれる有機フッ素化合物群の一部に位置付けられる物質群です。
一方、MCCPは中鎖塩素化パラフィンと呼ばれ、今回の指定では、炭素鎖長C14~17で、かつ塩素含有量が重量比45%以上のものが対象とされています。
クロルピリホスは、農薬用途などで知られる有機リン系化合物です。
重要なのは、物質名を覚えることではありません。
「第一種特定化学物質になると何が起きるのか」を理解することです。
「第一種特定化学物質」になる意味
第一種特定化学物質は、単なる「注意して使用する化学物質」という位置付けではありません。
化審法では、自然的作用による化学的変化を生じにくく、生物の体内に蓄積されやすく、継続的な摂取によって人の健康または高次捕食動物に影響を及ぼすおそれがある化学物質などについて、厳しい管理を行う仕組みを設けています。
第一種特定化学物質に指定されると、製造・輸入・使用などに厳しい規制がかかります。
さらに重要なのが、
「物質そのものを輸入していないから関係ない」とは限らない
という点です。
政令で指定された製品について、その中に第一種特定化学物質が使用されている場合、その製品自体の輸入が禁止される場合があります。
今回の改正でも、LC-PFCA等またはMCCPが使用されている場合に輸入できない製品として、潤滑油等が指定されます。
クロルピリホスについても、使用されている場合に輸入できない製品として木材用の防虫剤が指定されます。
確認対象は「化学物質」だけではありません。
製品、用途、輸入形態まで見る必要があります。
しかし、なぜ「化審法」があるのか
ここで一度、2026年から約50年前まで時間を戻してみます。
現在の化学物質管理では、「新しい化学物質を市場に出す前に安全性を確認する」という考え方は、それほど不思議には感じないかもしれません。
しかし、この考え方が最初から存在していたわけではありません。
PCB問題が大きな転換点になった
大きな転換点となったのが、PCB問題です。
PCB(Polychlorinated Biphenyl:ポリ塩化ビフェニル)は、化学的に安定しており、電気絶縁性などにも優れていたことから、かつてさまざまな用途で使用されました。
ところが、環境中で分解されにくく、生物に蓄積する性質を持っています。
1960年代後半には、PCBによる環境汚染や健康への影響が大きな社会問題となりました。
こうした経験を背景に、1973年に制定され、1974年に施行されたのが化審法です。
正式名称
化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律
化審法が持ち込んだ重要な考え方――「市場に出す前に調べる」
化審法の大きな特徴の一つが、新規化学物質の事前審査です。
問題が起きてから規制するだけではなく、新たな化学物質を製造・輸入する段階で、その性状などを確認します。
従来型の考え方
製造・輸入 → 市場で使用 → 環境汚染・影響 → 調査 → 規制
化審法が導入した考え方
製造・輸入する前 → 化学物質を審査 → 必要に応じて管理 → 市場へ
制定当初は、難分解性、高蓄積性、長期毒性を有するPCBのような化学物質が重要な対象でした。
しかし、化学物質を取り巻く社会や科学的知見は変化します。
そのため、化審法も約50年間、同じ制度のままだったわけではありません。
化審法は50年間でどう変わったのか
1986年の改正では、高蓄積性ではなくても、難分解性があり、広い地域に残留する可能性のある化学物質などへの対応が強化され、現在の第二種特定化学物質につながる制度が整備されました。
2003年改正では、人への健康影響だけでなく、動植物への影響という視点も強化されます。
さらに2009年改正では、大きな方向転換が行われました。
新しい化学物質だけではなく、既存化学物質を含む幅広い化学物質について、一定数量以上を製造・輸入した事業者から数量などの情報を収集し、その情報をもとにリスク評価を進める仕組みが導入されました。
2017年改正では、新規化学物質の審査特例制度について、単純な製造・輸入数量だけではなく、環境排出量を考慮する仕組みなどが導入されています。
化審法は「禁止物質リスト」ではありません。
新しい化学物質を事前に審査し、市場に存在する化学物質についても情報を集め、リスクを評価し、必要に応じて規制する。これが制度の基本構造です。
では、なぜ2026年にLC-PFCAやMCCPが追加されるのか
ここで、ストックホルム条約につながります。
POPs(Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質)は、環境中で分解されにくく、生物に蓄積し、長距離を移動するなどの性質を持つことから、一つの国だけでは十分に管理できない場合があります。
そのため、国際的に管理する仕組みとしてストックホルム条約があります。
2025年4月28日から5月9日に開催された第12回締約国会議(COP12)では、クロルピリホス、LC-PFCAとその塩・関連物質、MCCPを附属書Aへ追加することが決定されました。
附属書Aは、原則として製造・使用の廃絶を目指す物質を掲載するものです。ただし、物質ごとの適用除外などが設定される場合があります。
「ストックホルム条約で決まった」ことと、企業に具体的な国内法上の義務が発生することは同じではありません。
国際条約で決定された内容を、国内制度へ反映する必要があります。
その一つが化審法です。
ストックホルム条約とPOPsの基本については、以下の記事で詳しく解説しています。
世界の規制は「国際条約 → 国内法」で見る
今回の流れを並べると、非常に分かりやすくなります。
2025年
ストックホルム条約COP12でLC-PFCA、MCCP、クロルピリホスを附属書Aへ追加
国内で検討
化審法上の規制措置を検討
2026年5月
化審法施行令改正を決定・公布
2026年11月22日
主要な規制を施行
国際的な化学物質規制を見るとき、この流れを理解しておくことは非常に重要です。
ストックホルム条約そのものを読んだだけでは、企業に対して「いつから」「何が」「どのように」規制されるのかまでは判断できません。
逆に、化審法だけを見ていると、なぜその物質が規制対象になったのか、その背景を理解しにくくなります。
国際的な科学的評価・条約
↓
国内制度
↓
企業実務
今回の改正で「製品」まで見る必要がある理由
今回の改正を企業実務から考えた場合、特に注意したいのがここです。
化学物質規制というと、
「自社でその化学物質を製造しているか」
「原料として購入しているか」
という確認を最初に考えがちです。
しかし、化審法の第一種特定化学物質では、それだけでは十分ではありません。
政令で指定された製品については、対象となる第一種特定化学物質が使用されていれば、その製品を輸入すること自体が禁止されます。
今回もLC-PFCA等やMCCPについて、使用されている場合に輸入できない製品が指定されます。
「対象物質を購入しているか」だけでなく、
「輸入している製品・部材等に対象物質が使用されていないか」という視点が必要です。
LC-PFCA――「PFAS対応」の中でも対象範囲を正確に見る
LC-PFCAを考えるときに注意したいのが、「PFAS」という大きな言葉との関係です。
PFASは非常に多くの有機フッ素化合物を含む広い概念です。
今回、化審法で第一種特定化学物質に指定されるのは、PFAS全体ではありません。
対象となるLC-PFCA、その塩、関連物質の法令上の定義を確認する必要があります。
「PFASを使用していますか?」という確認だけでは、必ずしも十分ではありません。
どの物質を対象として確認するのかを明確にしたうえで、サプライヤー調査や分析を設計する必要があります。
MCCP――物質名だけでは判断できない
MCCPについても同じです。
「塩素化パラフィン」という名称だけを見て判断するのではなく、今回の規制対象となる定義を確認する必要があります。
今回の指定では、炭素鎖長がC14~17で、塩素含有量が重量比45%以上の塩素化パラフィンがMCCPとして対象になります。
つまり、
どの炭素鎖長なのか
どのような組成なのか
規制上のMCCPの定義に該当するのか
まで確認する必要があります。
これは分析を考える場合にも重要なポイントです。
クロルピリホス――工業製品だけの話ではない
クロルピリホスは、主として農薬用途などで知られる物質です。
今回の改正では、クロルピリホスそのものを第一種特定化学物質に指定するとともに、クロルピリホスが使用された木材用の防虫剤が輸入禁止対象製品として指定されます。
この点からも、化審法が単純に化学メーカーだけを対象とする制度ではないことが分かります。
輸入製品を扱う事業者にとっても、自社が扱う製品と第一種特定化学物質との関係を確認することが重要になります。
消火剤はさらに別の対応がある
LC-PFCAについては、もう一つ注意すべき領域があります。
今回の改正では、LC-PFCAとその塩またはLC-PFCA関連物質が使用されている、
・消火器
・消火器用消火薬剤
・泡消火薬剤
について、当分の間、取扱い時に定められた技術上の基準等に従う対象とされます。
化審法への対応は「含有しているか、していないか」だけではありません。
物質や製品によって、製造・輸入・使用・取扱いのどこに規制がかかるのかが異なります。
では、企業は具体的に何をすればよいのか
ここまで制度を理解すると、企業が確認すべきことが見えてきます。
最初からすべての製品を分析することが、必ずしも最適とは限りません。
まず行うべきなのは、自社と対象物質との接点を整理することです。
STEP 1 自社の事業との接点を確認する
まず、次のような観点から確認します。
・対象物質そのものを製造していないか
・対象物質そのものを輸入していないか
・対象物質を原料・添加剤等として使用していないか
・対象物質が使用される可能性のある製品を輸入していないか
・輸入禁止対象製品を扱っていないか
・消火器・消火薬剤等の対象製品を保有・取り扱っていないか
ここで対象にならなければ、その後の調査範囲を絞れる可能性があります。
STEP 2 部材・材料・用途から可能性を絞る
次に、製品を構成する材料や用途を確認します。
化学物質規制への対応で非効率になりやすいのが、
「規制されたから全製品を分析する」
という考え方です。
まずはBOM、原材料情報、SDS、仕様書、購入記録、サプライヤーからの情報などを確認し、対象物質との接点を整理します。
STEP 3 サプライヤーへ確認する
自社で組成情報を持っていない場合、サプライヤーへの確認が重要になります。
ただし、
「化審法に適合していますか」
という質問だけでは、情報が不足する場合があります。
何の物質について、どの範囲を確認しているのかを明確にする必要があります。
特にLC-PFCAのような物質群やMCCPでは、規制上の対象範囲を理解したうえで調査することが重要です。
STEP 4 必要な場合に分析を使う
書類やサプライヤー情報だけでは判断できない場合に、試験・分析が選択肢になります。
ここで重要なのは、
「分析すること」自体を目的にしない
ということです。
まず、何を確認したいのかを決めます。
例えば、
「LC-PFCAが含まれている可能性を確認したい」
「MCCPの規制対象に該当する可能性を確認したい」
「サプライヤーから十分な情報が得られない」
など、分析の目的によって必要な試験設計は変わります。
また、化学分析で何らかの物質が検出されたことと、直ちに法令違反であることも同義ではありません。
対象物質の法令上の定義、製品区分、使用状況、適用される規制などをあわせて確認する必要があります。
「分析証明書があれば安心」とも限らない
もう一つ重要なのが、試験報告書の読み方です。
例えば分析結果に「ND(Not Detected:不検出)」と書かれていたとしても、それだけで規制への適合性を完全に判断できるとは限りません。
確認したいのは、次のような点です。
・何を分析したのか
・対象物質の範囲はどこまでか
・どの分析方法を使用したのか
・定量下限・検出下限はどう設定されているか
・どの試料・部位を測定したのか
・その結果から何を判断できるのか
特に物質群を対象とする規制では、「PFAS分析」「塩素化パラフィン分析」といった大きな名称だけで判断せず、実際の分析対象と法令上の対象範囲が一致しているかを見る必要があります。
これはTestingの問題であると同時に、規制要求をどのように試験へ落とし込むかという品質保証上の問題でもあります。
化審法対応は「一回調べて終わり」ではない
今回の改正から、もう一つ見えてくることがあります。
化学物質規制は固定されたリストではありません。
ストックホルム条約では、科学的評価を経て新しいPOPsが追加されます。
その決定を受けて、国内でも化審法などの制度が改正されます。
したがって企業にとって重要なのは、2026年11月22日に一度確認して終了することではありません。
↓
国際的な決定
↓
国内制度への反映
↓
施行
↓
自社製品・サプライチェーンへの影響確認
という流れを継続的に追える仕組みを持つことが重要です。
規制対応を「分析するかどうか」だけで考えない
今回の化審法改正で注目すべきなのは、「規制物質が増える」という事実だけではありません。
重要なのは、国際的な化学物質管理と国内規制、そして企業のサプライチェーン管理が一本につながっていることです。
2025年のストックホルム条約COP12で新しいPOPsが追加され、それを受けて2026年に化審法が改正される。そして国内法として施行されれば、企業は自社の原材料、製品、輸入品、サプライヤー情報などを確認する必要が出てきます。
ここで企業実務を、
「規制が出た → 分析する」
だけで考えると、必要以上に分析対象が広がる可能性があります。
逆に、
規制対象を理解する
↓
自社との接点を確認する
↓
対象材料・製品を絞る
↓
サプライヤー情報を確認する
↓
情報が不足する部分を分析で確認する
という順番で考えれば、より合理的な対応が可能になります。
特にLC-PFCAやMCCPのような物質群では、法令上の対象範囲と分析対象を一致させることが重要です。
企業に必要なのは単なる「分析」ではありません。RegulationとTestingをつなぎ、どの規制に対して、何を確認し、そのためにどの情報・試験が必要なのかを設計することが、これからの化学物質管理ではさらに重要になります。
まとめ――化審法を理解すると、規制が「突然」に見えなくなる
2026年11月22日、LC-PFCAとその塩、LC-PFCA関連物質、クロルピリホス、MCCPが化審法の第一種特定化学物質として新たに規制されます。
しかし、この改正だけを見ていると、規制物質が突然増えたように感じるかもしれません。
実際には、その背景には長い流れがあります。
PCBによる環境汚染問題を背景として1973年に化審法が制定され、新規化学物質の事前審査という考え方が導入されました。
その後、制度はリスク評価や動植物への影響、既存化学物質の管理などへ広がってきました。
一方、国境を越えるPOPsについてはストックホルム条約という国際的な枠組みがあります。
2025年のCOP12でLC-PFCA、MCCP、クロルピリホスが附属書Aへ追加され、その国際的な決定が2026年の化審法改正へとつながりました。
企業にとって重要なのは、規制物質の名前を覚えることだけではありません。
どの法律で規制されるのか。
いつから規制されるのか。
物質なのか、製品なのか。
自社のどこに接点があるのか。
書類で確認できるのか。
分析が必要なのか。
ここまで分解して初めて、規制情報を実務へ落とし込むことができます。
化学物質規制は、突然生まれるわけではありません。
国際的な議論から国内法、サプライチェーン、そして試験・分析まで、その流れを追うことで、次に企業が何を確認すべきかも見えやすくなります。
化学物質規制対応を、調査・試験まで一貫して整理
TICnology Japanでは、化学物質規制要求の整理、対象物質・対象製品の切り分け、サプライヤー調査、必要な試験・分析項目の整理、国内外の分析リソース選定などを支援しています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法令、規格その他の公式文書を代替するものではありません。
実際の適合判断、対象物質、対象製品その他の要求事項については、当局が公表する最新の公式情報および正式な法令等をご確認ください。
情報基準日:2026年8月28日
コメント