海外へ製品を販売すると、「REACH」「RoHS」「TSCA」「Proposition 65」「K-REACH」「中国RoHS」など、さまざまな規制名に出会います。
初めて担当する人にとって難しいのは、規制の内容以前に、それぞれが何を規制していて、どう違うのかが分かりにくいことではないでしょうか。
REACHとRoHSは同じEUの制度ですが、目的も対象も違います。日本のJ-MossとEU RoHSも似て見えますが、同じ制度ではありません。米国では連邦法のTSCAに加えて、カリフォルニア州のProposition 65のような州独自制度も存在します。
本稿では、世界の主要な化学物質規制を同じ視点で並べ、「この規制は何のためにあるのか」「何を対象としているのか」「企業には何が求められるのか」を短時間で確認できるよう整理します。
世界の化学物質規制 一覧
国・地域名、または規制名を選ぶと該当箇所へ移動できます。
| 国・地域 | 主な制度 | 主なポイント |
|---|---|---|
| 🌐 国際 | GHS / ストックホルム条約 / ロッテルダム条約 / 水俣条約 / バーゼル条約 | 危険有害性情報、POPs、水銀、有害化学物質貿易、有害廃棄物 |
| 🇪🇺 EU | REACH / RoHS / CLP / POPs規則 | 登録・評価・認可・制限、10物質、分類表示、POPs |
| 🇯🇵 日本 | 化審法 / 化管法 / 安衛法 / J-Moss | 新規化学物質、PRTR・SDS、労働安全、電気電子機器の含有表示 |
| 🇨🇳 中国 | 新化学物質環境管理登記弁法 / 中国RoHS / VOC関連強制国家標準 | 新規化学物質、電器電子製品10物質、VOC |
| 🇰🇷 韓国 | K-REACH / 化学物質管理法 / 韓国RoHS | 登録・評価、化学物質取扱い、電気電子製品の有害物質 |
| 🇹🇼 台湾 | 毒性及び懸念化学物質管理法 / 新規・既有化学物質登録 / 台湾RoHS | 毒性・懸念物質、化学物質登録、電気電子製品 |
| 🇺🇸 米国 | TSCA / HazCom / Proposition 65 / 州別化学物質規制 | 工業化学物質、職場安全、ばく露警告、州独自規制 |
| 🇨🇦 カナダ | CEPA / WHMIS | 化学物質・環境リスク、インベントリ、職場のSDS・ラベル |
| 🇬🇧 英国 | UK REACH / GB CLP / UK RoHS | EU離脱後の化学物質登録、分類表示、電気電子機器規制 |
| 🇦🇺 豪州 | AICIS / WHS | 工業化学品の導入、職場での危険有害化学品管理 |
| 🇳🇿 NZ | Hazardous Substances制度 | 危険有害物質、承認、分類、ラベル |
| 🇮🇳 インド | インドRoHS / 危険化学物質関連制度 | 電気電子機器、危険化学物質、製造・保管・輸入 |
| 🌏 ASEAN | タイ / ベトナム / マレーシア / シンガポール / フィリピン | インベントリ、輸入、届出、許可、GHS・SDS |
| 🇹🇷 トルコ | KKDIK / SEA | 登録・評価・認可・制限、分類・表示 |
| 🌐 EAEU | 化学品安全技術規則 | 域内共通制度、化学品安全、移行措置 |
| 🌍 中東 | サウジアラビア / UAE | 輸入、危険物、製品規制、適合性評価 |
※本一覧は主要制度の位置付けを把握するためのものです。実際の適用は、対象製品、物質、用途、数量、濃度、輸出入形態などによって異なります。
まず知っておきたい「化学物質規制」は一種類ではない
世界の制度を理解するときは、規制名を覚える前に「何を管理する制度なのか」を見ると整理しやすくなります。
| 規制の考え方 | 何を管理するのか | 代表例 |
|---|---|---|
| 化学物質そのもの | 製造・輸入・登録・リスク | REACH、TSCA、化審法、K-REACH |
| 製品中の化学物質 | 製品への特定物質の含有 | EU RoHS、中国RoHS |
| 危険有害性情報 | 分類・ラベル・SDS | GHS、CLP、HazCom |
| 環境への排出 | 排出量・移動量 | PRTR、EPCRA |
| 特定有害物質 | POPs、水銀など | ストックホルム条約、水俣条約 |
| 消費者への情報 | 警告・情報提供 | California Proposition 65 |
| 労働者保護 | 職場での化学物質管理 | 日本の安衛法、米国HazCom |
まず世界共通の土台を見る
GHS
対象:化学品の分類・表示・SDS
GHS(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)は、化学品の危険有害性を分類し、絵表示、注意喚起語、危険有害性情報、SDSなどによって伝えるための国際的な枠組みです。
GHS自体が世界共通の単一法令として企業へ直接適用されるわけではなく、各国・地域が国内制度へ取り込んで運用します。そのため、採用版や具体的な要求には地域差があります。
ストックホルム条約
対象:残留性有機汚染物質(POPs)
環境中に長期間残留し、生物に蓄積し、長距離を移動するなどの性質を持つPOPs(Persistent Organic Pollutants)を国際的に管理する条約です。
対象物質について、製造・使用の廃絶、制限、非意図的生成の削減などを求め、締約国が国内法へ反映します。
ロッテルダム条約
対象:特定の有害化学物質・農薬の国際貿易
国際取引される特定の有害化学物質について、輸入国が事前に情報を受け、輸入意思を示せるPIC(Prior Informed Consent:事前の情報に基づく同意)手続きを設けています。
農薬も対象に含まれますが、工業用化学物質の国際取引にも関係するため、世界の化学物質管理を理解するうえで重要です。
水俣条約
対象:水銀・水銀化合物・水銀使用製品
水銀による人の健康と環境への影響を低減するため、水銀の供給、貿易、製品、製造工程、排出、廃棄物などを国際的に管理する条約です。
単純な「水銀含有禁止」だけではなく、水銀のライフサイクルを広く対象としていることが特徴です。
バーゼル条約
対象:有害廃棄物等の越境移動・処分
有害廃棄物などの国境を越える移動と処分を管理する国際条約です。
電子廃棄物、使用済み製品、リサイクル原料などの国際移動を考える場合に重要となります。
欧州連合(EU)
EUでは、REACHだけでなく、CLP、RoHS、POPs規則など目的の異なる制度が重なって化学物質を管理しています。
REACH
対象:化学物質・混合物・一定の成形品
REACHは、Registration(登録)、Evaluation(評価)、Authorisation(認可)、Restriction(制限)を柱とするEUの包括的な化学物質規則です。
原則として年間1トン以上製造・輸入される物質の登録に加え、SVHC(高懸念物質)の情報伝達、特定物質の認可、用途や製品を含む制限など複数の仕組みを持っています。単純な「禁止物質リスト」ではありません。
EU RoHS
対象:電気・電子機器
電気・電子機器に含まれる鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB、PBDE、DEHP、BBP、DBP、DIBPの10物質を制限する制度です。
最大許容濃度は均質材料単位で、カドミウムが原則0.01wt%、その他9物質が原則0.1wt%です。用途ごとに適用除外が存在するため、「検出された=直ちに不適合」とは限りません。
CLP
対象:化学物質・混合物
CLP(Classification, Labelling and Packaging)は、化学品の分類、表示、包装を定めるEUの制度です。
REACHが化学物質の登録やリスク管理を広く扱うのに対し、CLPは「その化学品にどのような危険有害性があり、それをどう分類・表示するか」を中心にしています。
EU POPs規則
対象:POPs対象物質
ストックホルム条約等の国際的な義務をEU域内で実施するため、POPsの製造、上市、使用、廃棄物管理などを規定します。
REACHとは別の法体系であり、対象物質についてはPOPs規則の濃度限度や廃棄物要求などを個別に確認する必要があります。
日本
化審法
対象:工業用化学物質
化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)は、新規化学物質の製造・輸入前の審査を基本とし、既存化学物質についても性状やリスクに応じた評価・管理を行います。
第一種特定化学物質などについては製造・輸入・使用等に厳しい規制が設けられています。POPs条約による物質追加も国内制度へ反映されます。
化管法
対象:指定化学物質
化管法は、PRTR制度とSDS制度を二つの柱としています。
PRTRでは対象化学物質の環境への排出量や事業所外への移動量を把握・届出し、SDS制度では対象化学品を事業者間で譲渡・提供する際に、その性状や取扱情報を伝達します。
労働安全衛生法
対象:職場で取り扱う化学物質
労働者の安全と健康を守る観点から、危険・有害な化学物質についてラベル表示、SDS交付、リスクアセスメントなどを求めます。
化審法が主として環境を経由した人・生態系への影響を扱うのに対し、安衛法では職場で化学物質を扱う人の安全・健康が重要な視点になります。
J-Moss
対象:特定の電気・電子機器
JIS C 0950に基づき、鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB、PBDEの6物質について、電気・電子機器における含有表示を定めた仕組みです。
EU RoHSと同じ6物質が基礎にあるため混同されやすいものの、EU RoHSと日本のJ-Mossは法的な仕組みも対象製品も同一ではありません。
中国
中国では、新規化学物質そのものを管理する制度と、電器電子製品に含まれる有害物質を管理する中国RoHS、さらにVOCを対象とした製品別の強制国家標準など、目的の異なる制度が並行して運用されています。
新化学物質環境管理登記弁法
対象:IECSCに収載されていない新規化学物質
中国で新規化学物質を製造または輸入する際の環境管理制度です。既存化学物質かどうかを判断する基準となるのが、IECSC(中国現有化学物質名録)です。
IECSCに収載されていない物質については、製造・輸入量や物質特性などに応じて、通常登記、簡易登記、備案などの手続きを確認する必要があります。中国市場へ化学品を投入する際は、まずインベントリ収載状況を確認することが出発点となります。
中国RoHS
対象:電器電子製品
中国RoHSは、電器電子製品に含まれる有害物質の使用を管理する制度です。従来の鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB、PBDEの6物質に、DEHP、BBP、DBP、DIBPの4種類のフタル酸エステルが追加され、10物質の管理体系となっています。
EU RoHSと対象物質が似ていても、制度設計は同一ではありません。中国では有害物質の表示や環境保護使用期限などの情報開示に加え、対象となる製品について適合管理の仕組みを確認する必要があります。
VOC関連強制国家標準
対象:塗料、接着剤、インキ、洗浄剤など
中国では、大気汚染対策の一環として、VOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)を含む製品について、製品群ごとの強制国家標準が整備されています。
規制値や試験方法は製品カテゴリーによって異なるため、「中国VOC規制」という一つの共通基準で判断するのではなく、塗料、接着剤、インキ、洗浄剤など、自社製品に対応する国家標準を特定する必要があります。
韓国
韓国では、化学物質の登録・評価を担うK-REACHと、化学物質の取扱いや事故予防を担う化学物質管理法が大きな柱です。電気・電子製品については、有害物質の使用制限を含む別の製品規制も存在します。
K-REACH
対象:既存化学物質・新規化学物質など
K-REACHは「化学物質の登録及び評価等に関する法律」の通称で、化学物質の登録、届出、評価、リスク管理などを定める韓国の主要制度です。
EU REACHと名称や考え方に共通点はありますが、登録対象、数量帯、期限、手続きなどは韓国独自です。EU向けにREACH対応を行っている企業でも、韓国向けにはK-REACHの要求を別途確認する必要があります。
化学物質管理法
対象:有害化学物質の取扱い・施設など
化学物質管理法は、化学物質による国民の健康・環境への危害を防ぎ、化学事故を予防するため、化学物質の取扱い、施設、営業、事故対応などを管理する制度です。
K-REACHが主として化学物質の登録・評価を扱うのに対し、化学物質管理法は実際の取扱いや事業所管理に重点があります。同じ化学物質でも、両制度を別の角度から確認する必要があります。
韓国RoHS
対象:電気・電子製品、自動車など
韓国では、電気・電子製品や自動車について、有害物質の使用制限、リサイクル、回収などを含む資源循環の観点から管理する制度が設けられています。
一般に「韓国RoHS」と呼ばれますが、EU RoHSをそのまま韓国へ移した制度ではありません。対象製品、対象物質、適用除外、遵守方法などを韓国制度に基づいて確認することが重要です。
台湾
台湾では、毒性・懸念化学物質の管理と、化学物質の登録制度を組み合わせて化学物質を管理しています。電気・電子製品については、製品規格・表示の枠組みの中で有害物質含有を管理する台湾RoHSも重要です。
毒性及び懸念化学物質管理法
対象:毒性化学物質・懸念化学物質
台湾では、人の健康や環境への影響が懸念される化学物質を指定し、製造、輸入、販売、使用、保管などについて管理する制度が設けられています。
対象物質の種類や取扱量などによって、許可、登記、承認、記録など必要となる対応が異なります。対象物質かどうかだけでなく、どのような事業活動で取り扱うかまで確認する必要があります。
新規・既有化学物質登録
対象:新規化学物質・既有化学物質
台湾では、新規化学物質と一定の既有化学物質について、製造・輸入量や物質情報などに応じた登録制度が設けられています。
新規物質については上市前の確認が特に重要です。既有化学物質についても、指定された物質では標準登録などが求められる場合があり、インベントリに存在するだけで対応が完了するとは限りません。
台湾RoHS
対象:対象となる電気・電子製品
台湾RoHSでは、CNS 15663を基礎として、鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB、PBDEなどの含有状況を管理・表示します。
EU RoHSと共通する物質が多い一方、台湾では対象製品ごとの検査・登録制度や表示要求との関係が重要です。EU向けRoHS資料だけで台湾要求を満たすと判断せず、対象製品に適用される台湾側の要求を確認します。
米国
米国で重要なのは、「米国の化学物質規制=TSCA」ではないことです。連邦レベルの化学物質管理に加えて、労働安全、情報開示、さらにカリフォルニア州をはじめとする州独自の規制を確認する必要があります。
TSCA
対象:工業用途を中心とする化学物質
TSCA(Toxic Substances Control Act:有害物質規制法)は、米国における工業化学物質管理の中心となる連邦法です。EPA(米国環境保護庁)が、新規化学物質の事前審査や既存化学物質のリスク評価・管理などを行います。
新規化学物質ではTSCA Inventoryへの収載状況が重要で、対象となる新規物質の製造・輸入前にはPMN(Premanufacture Notice)が必要となる場合があります。既存物質についても、リスク評価の結果に基づき用途や濃度などに規制が設けられる場合があります。
Hazard Communication Standard
対象:職場で使用される危険有害化学品
HazCom(Hazard Communication Standard)は、OSHA(米国労働安全衛生局)が所管する職場の危険有害性情報伝達制度です。
化学品の分類、ラベル、SDS、安全教育などを通じて労働者へ危険有害性を伝えることが中心です。TSCAが化学物質そのものの製造・輸入やリスク管理を扱うのに対し、HazComは職場での情報伝達と労働者保護という異なる役割を持ちます。
California Proposition 65
対象:発がん性または生殖毒性があると州が指定した化学物質へのばく露
Proposition 65は、カリフォルニア州が発がん性または生殖毒性があると指定した化学物質への一定以上のばく露が想定される場合、事業者に警告表示を求める制度です。
RoHSのように「製品中に対象物質が一定濃度以上含まれているか」だけで判断する制度ではありません。対象物質の存在に加え、製品の使用方法や人へのばく露量を考える必要がある点が大きな特徴です。
Proposition 65:主に人へのばく露を見る
州別化学物質規制
対象:州および製品カテゴリーによって異なる
米国では連邦法に加えて、各州が独自の化学物質規制を設けています。対象はPFAS、難燃剤、重金属、子ども向け製品、包装材、化粧品など多岐にわたり、州によって対象物質、製品、報告義務、販売制限が異なります。
したがって米国向け製品では、「TSCAに適合しているから米国全体で問題ない」とは限りません。販売する州と製品カテゴリーを特定したうえで、州法まで確認することが重要です。
カナダ
カナダの化学物質管理では、CEPAを法的基盤とする既存化学物質のリスク管理と、新規化学物質の届出制度が中心となります。製品分野によっては、特定有害物質を対象とする個別規制も確認が必要です。
CEPA
対象:化学物質、環境・健康リスクを有する物質など
CEPA(Canadian Environmental Protection Act, 1999:カナダ環境保護法)は、人の健康や環境に影響を及ぼす可能性のある物質を評価・管理するための主要な法的枠組みです。
カナダでは、既存化学物質についてリスク評価を行い、その結果に応じて禁止、使用制限、排出管理などの措置が講じられます。EU REACHのような一つの登録制度だけを見るのではなく、CEPAの下で対象物質にどのような管理措置が設定されているかを確認することが重要です。
新規物質届出制度
対象:カナダで新規となる化学物質・ポリマーなど
カナダでは、DSL(Domestic Substances List:国内物質リスト)への収載状況が、化学物質が新規物質に該当するかを判断する重要な基準となります。
DSLに収載されていない対象物質を製造・輸入する場合には、数量や物質区分などに応じて、事前の情報提出が必要となる場合があります。したがって、カナダ向け化学品では、まずDSLへの収載状況を確認することが基本です。
特定有害物質の禁止・制限
対象:個別に指定された有害物質・製品
カナダでは、CEPAに基づくリスク管理の一環として、特定の有害物質について製造、使用、販売、輸入などを禁止または制限する個別規則が設けられています。
企業実務では、化学物質がDSLに収載されているかだけでなく、その物質について個別の禁止・制限措置が存在しないかまで確認する必要があります。製品中の含有物質についても、用途や適用除外を含めた確認が重要です。
英国
英国ではEU離脱後、EU制度を基礎としながら独自の化学物質管理制度が運用されています。特に注意したいのは、英国とEUを同じ規制市場として扱えないことです。
UK REACH
対象:英国で製造・輸入される化学物質など
UK REACHは、EU離脱後の英国で運用される化学物質の登録、評価、認可、制限の制度です。基本的な考え方はEU REACHを引き継いでいますが、EU REACHとは別の法制度として運用されています。
EU REACHで登録済みであっても、それだけで英国市場への対応が完了するとは限りません。英国側の登録主体、移行措置、登録期限などを確認し、EUと英国を分けて管理する必要があります。
GB CLP
対象:化学物質・混合物
GB CLPは、Great Britainにおける化学品の分類、表示、包装を定める制度です。化学品の危険有害性を分類し、その結果をラベルや包装などへ反映します。
EU CLPを基礎としていますが、EU離脱後は制度改正が必ずしも同じタイミング・内容で進むとは限りません。EU向けと英国向けで、分類や表示要求に差が生じていないかを継続的に確認する必要があります。
UK RoHS
対象:電気・電子機器
UK RoHSは、電気・電子機器に含まれる鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB、PBDEと、DEHP、BBP、DBP、DIBPの4種類のフタル酸エステルを含む10物質を制限する制度です。
対象物質はEU RoHSと共通しますが、英国は独自の法域です。適用除外や制度改正について、EU側の変更が自動的に英国へ反映されると考えず、英国側の最新要求を確認することが重要です。
オーストラリア
オーストラリアでは、工業用途の化学物質をAICISが管理しています。輸入・製造する物質が既存インベントリに収載されているか、どの導入カテゴリーに該当するかを確認することが実務の出発点です。
AICIS
対象:工業用途の化学物質
AICIS(Australian Industrial Chemicals Introduction Scheme)は、オーストラリアで工業化学物質を輸入または製造する事業者に適用される化学物質管理制度です。
既存物質についてはAustralian Inventory of Industrial Chemicalsへの収載状況を確認します。新規またはインベントリ条件外の導入では、リスク等に応じてExempted、Reported、Assessedなどのカテゴリーを判断します。
EU REACHのように「一定数量以上なら一律に登録」という理解では不十分です。物質の用途、ばく露、ハザード、導入量などを踏まえて、どのカテゴリーに該当するかを確認することが重要です。
ニュージーランド
ニュージーランドでは、HSNO法を中心として有害物質を管理しています。化学物質そのものだけでなく、その危険有害性や用途に応じた承認・管理条件を確認することが特徴です。
HSNO
対象:危険有害性を持つ化学物質・混合物など
HSNO(Hazardous Substances and New Organisms Act)は、ニュージーランドにおける有害物質と新生物の管理を定める法律です。化学品についてはEPA(Environmental Protection Authority)が主要な役割を担います。
有害物質を輸入・製造する場合、既存の個別承認やGroup Standardに該当するかを確認し、適用される管理条件に従う必要があります。
実務では、成分だけを確認するのではなく、製品の危険有害性分類と、どの承認枠組みに該当するかを確認することが重要です。
インド
インドでは、化学物質を一つの包括的な「REACH型制度」だけで管理しているわけではありません。危険化学物質、製品規格、電子・電気機器、廃棄物など、複数の法令・規則を対象製品や事業活動に応じて確認する必要があります。
危険化学物質関連規則
対象:指定された危険化学物質など
インドでは、Manufacture, Storage and Import of Hazardous Chemical Rules(MSIHC Rules)などにより、一定の危険化学物質について製造、保管、輸入時の安全管理を定めています。
対象物質や数量によって、届出、安全報告、緊急時対応などの要求が関係します。化学品をインドへ輸出する場合は、製品中の成分だけでなく、輸入量や保管・取扱形態も含めて適用性を確認する必要があります。
インドRoHS
対象:対象カテゴリーの電気・電子機器
インドではE-Waste関連規則の中で、対象となる電気・電子機器について鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB、PBDEの6物質の使用を制限しています。
EU RoHSと共通する物質がありますが、対象製品、法的根拠、遵守手続きはインド独自です。EU RoHSへの適合だけを根拠として判断せず、インドのE-Waste制度に基づく対象範囲と要求事項を確認する必要があります。
国境を越えて影響する国際的な枠組み
ここまで見てきた各国・地域の規制とは別に、世界の化学物質管理には国際条約や国際的な分類ルールがあります。これらは各国の国内法そのものではありませんが、各国の規制を理解するうえで重要な共通基盤となっています。
ストックホルム条約(POPs条約)
対象:国際的に指定された残留性有機汚染物質
POPs(Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質)は、環境中に長期間残留し、生物に蓄積し、長距離を移動するなどの性質を持つ有機化学物質です。ストックホルム条約は、こうした物質から人の健康と環境を保護することを目的としています。
条約で対象物質が追加されると、締約国は国内法制度を通じて製造・使用・輸出入などの廃絶または制限を進めます。そのため、POPs規制は一つの国だけを見ればよい制度ではなく、国際条約から各国法へ展開される規制として理解することが重要です。
水俣条約
対象:水銀、水銀化合物、水銀添加製品など
水銀に関する水俣条約は、水銀による人の健康と環境への影響を世界的に低減するための国際条約です。水銀の供給・貿易、製品、製造工程、排出・放出、保管、廃棄物など幅広い段階を対象とします。
製造業にとって重要なのは、水銀が単に「含有禁止物質」として扱われるだけではない点です。対象製品や製造工程など、ライフサイクルのどの段階が規制対象となるかを確認する必要があります。
GHS
対象:化学品の危険有害性分類・ラベル・安全データシート
GHS(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)は、化学品の危険有害性を分類し、ラベルやSDS(Safety Data Sheet:安全データシート)によって情報を伝達するための国際的な枠組みです。
GHS自体が世界共通の一つの法律として企業を直接規制するわけではありません。各国・地域がGHSを国内制度へ取り入れるため、採用している版や分類区分、表示要求などには違いがあります。「GHS対応済み」だけではなく、販売先の制度に適合しているかを確認する必要があります。
世界の化学物質規制は「規制名」ではなく、5つの視点で読む
世界の規制を一覧にすると、REACH、RoHS、TSCA、化審法など、多数の名称が並びます。しかし、名称を暗記するだけでは実務にはつながりません。
規制ごとの差を理解するには、まず「何を、どの段階で、どのように管理する制度なのか」を見ると整理しやすくなります。
「この物質は規制されているか」だけではなく、「どの国で」「どの製品に」「どの用途で」「どの段階に」「どの要求が適用されるか」を確認することが、化学物質規制を理解する基本です。
製造業は何を確認すればよいのか
海外へ製品や化学品を供給する場合、最初から個別物質の分析を考えるのではなく、まず自社製品と販売先に適用される規制を特定する必要があります。
化学物質規制は「物質リスト」ではなく、仕組みから理解する
世界の化学物質規制を並べると、その数の多さに目が向きます。しかし、企業実務で本当に重要なのは、すべての規制名や規制物質を暗記することではありません。
重要なのは、「どの市場で、何を販売し、その製品にどの規制が適用され、何によって適合性を確認するのか」という流れを理解することです。
また、規制対応と分析試験は同じものではありません。規制によっては登録、届出、情報伝達、表示、サプライチェーン管理が中心となり、分析だけでは適合性を判断できない場合があります。一方で、含有濃度の確認など、分析データが重要な証拠となる場面もあります。
TICnology Japanでは、今後TICジャーナルで個々の規制を順次掘り下げます。本稿を世界の主要な化学物質規制を俯瞰する入口として、各制度の背景、対象、要求事項、分析・試験との関係を個別記事で詳しく整理していきます。
世界の化学物質規制を理解するために
世界には、化学物質の登録・評価を求める制度、製品中の有害物質を制限する制度、危険有害性を伝える制度、特定物質を禁止する制度、廃棄や環境排出を管理する制度があります。
そして、一つの製品に一つの規制だけが適用されるとは限りません。同じ製品、同じ物質でも、販売する国、用途、製品カテゴリー、サプライチェーン上の立場によって確認すべき要求は変わります。
まず世界の規制の全体像を知る。そのうえで、自社に関係する市場と製品から必要な制度を絞り込む。この順番が、複雑な化学物質規制を理解するための出発点になります。
複数国への製品展開では、対象規制、規制物質、サプライヤー情報、試験項目を個別に確認する必要があります。TICnology Japanでは、化学物質規制と試験・分析要求の整理、外部試験機関の活用、分析体制の見直しなど、TICに関する課題整理を支援しています。
ご相談・お問い合わせ本記事は、各国・地域の政府機関、規制当局、国際機関等が公開している情報をもとに、世界の主要な化学物質規制の全体像を把握することを目的としてTICnology Japanが独自に整理したものです。
各制度の対象範囲、対象物質、適用除外、移行措置、届出・登録方法、試験要求等は、製品、用途、数量、事業者の立場などによって異なる場合があります。また、法改正や対象物質の追加等により変更されることがあります。
本記事にはTICnology Japanによる分析・考察を含みます。特定の企業、製品、サービス、投資または取引を推奨するものではありません。実際の規制対応にあたっては、各国・地域の公的機関が公表する最新の法令・公式情報をご確認ください。
欧州委員会・欧州化学品庁(ECHA) 化学物質・製品規制関連資料
米国環境保護庁(EPA) Toxic Substances Control Act関連資料
California Office of Environmental Health Hazard Assessment Proposition 65関連資料
日本国 経済産業省・厚生労働省・環境省 化学物質管理関連資料
中国関係当局 化学物質および電気電子製品有害物質管理関連資料
韓国 環境部・関係当局 化学物質管理関連資料
Taiwan Environmental Management Administration 化学物質管理関連資料
Environment and Climate Change Canada CEPA・New Substances関連資料
UK Health and Safety Executive UK REACH・GB CLP関連資料
UK Government RoHS関連資料
Australian Industrial Chemicals Introduction Scheme(AICIS)公式資料
New Zealand Environmental Protection Authority HSNO関連資料
インド政府・Central Pollution Control Board 化学物質・E-Waste関連資料
Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants 公式資料
Minamata Convention on Mercury 公式資料
United Nations Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals
情報基準日:2026年8月24日
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