ISO/IEC 17025とは何か――信頼できる試験データと認定範囲の見極め方

ISO / IEC 17025

製品の安全性、品質、環境規制への適合性を説明するうえで、試験データは企業の意思決定を支える重要なエビデンスです。しかし、試験機関の知名度が高いだけで、個々の試験結果の技術的な信頼性まで判断できるわけではありません。

試験所・校正機関の能力、公平性、一貫した運営について国際的な要求事項を定めているのが、ISO/IEC 17025です。

本記事では、ISO/IEC 17025が何を評価する規格なのか、認定範囲をどのように確認すべきか、さらにREACH規則のSVHC候補リストのように対象が更新される分野で、試験機関をどう見極めるべきかを解説します。

EVIDENCE

1.試験結果は企業活動を支える「エビデンス」

製造業における試験結果は、単なる分析値ではありません。

REACH規則やRoHS指令などの化学物質規制への対応、製品仕様の確認、顧客への品質説明、研究開発、不具合解析、行政機関への説明、サプライチェーン管理など、多くの場面で企業判断の根拠として使用されます。

企業が試験機関へ依頼しているのは、分析装置を動かす作業そのものではありません。必要としているのは、顧客、取引先、規制当局、社内の品質保証部門に対して、合理的に説明できる試験データです。

重要なのは「数値が得られたか」だけではなく、どのような能力、方法、設備管理、品質管理のもとで、その結果が得られたかです。

試験方法は目的に適しているか。担当者は必要な力量を備えているか。測定機器は適切に管理されているか。試料は正しく採取、保管、前処理されているか。結果の妥当性は確認されているか。記録を後から追跡できるか。さらに、結果が営業上の都合や外部からの圧力に左右されない仕組みがあるか。

こうした条件を満たし、妥当な結果を継続的に生み出せる試験所の能力を評価する国際的な基準が、ISO/IEC 17025です。


STANDARD

2.ISO/IEC 17025とは

ISO/IEC 17025の正式名称は、「試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項」です。

ISOとIECが共同で策定する国際規格で、現行版はISO/IEC 17025:2017です。2017年11月に第3版として発行され、2023年の定期見直しで現行版として維持されることが確認されています。ISOは、この規格が試験所・校正機関の「能力」「公平性」「一貫した運営」に関する要求事項を定めるものと説明しています。

COMPETENCE

能力

特定の試験・校正を適切に実施できる技術力を備えていること。

IMPARTIALITY

公平性

営業上の利害や外部圧力に左右されず、客観的に業務を行うこと。

CONSISTENT OPERATION

一貫した運営

妥当な結果を継続的に提供するための仕組みを運用すること。

ISO/IEC 17025は、単に「設備がある」「手順書がある」ことを確認する規格ではありません。

必要な技術力を備えた人員が、管理された設備と環境のもとで、妥当な方法を用い、結果を適切に確認、記録、報告できるかを評価します。

ISO/IEC 17025が対象とする主な要素

規格の要求事項は、公平性や機密保持に関する一般要求事項、組織構造、資源、試験・校正プロセス、マネジメントシステムなどで構成されています。

企業が試験所を選ぶ立場から理解しておきたい要素は、次のとおりです。

人員の力量

試験を担当する人員について、必要な教育、訓練、技能、知識、経験を明確にし、担当業務に応じた力量を確認することが求められます。同じ分析装置を使用しても、試料の前処理、測定条件、妨害成分、異常値の判断に必要な知識がなければ、妥当な結果は得られません。

施設と環境条件

温度、湿度、振動、粉じん、電磁的影響、交差汚染などが結果へ影響する場合、試験所はその条件を管理する必要があります。特に微量分析、寸法測定、微生物試験、校正などでは、測定環境が結果へ直接影響する可能性があります。

設備の管理

測定機器や試験設備は、目的に適した性能を持ち、必要に応じて校正、点検、保守、性能確認が行われていなければなりません。高額な最新機器を所有していることと、信頼できる結果を継続的に提供できることは同じではありません。

計量トレーサビリティ

計量トレーサビリティとは、測定結果を文書化された切れ目のない校正の連鎖によって、適切な計量基準へ関連付けられるようにする考え方です。異なる時期や異なる試験所で得た結果を比較するためにも、測定の基準が明確であることが重要です。

試験方法の選定、検証、妥当性確認

試験所は、依頼目的に適した方法を選定し、その方法を自ら適切に実施できることを確認する必要があります。規格法や公定法を導入する場合には、試験所の設備、人員、環境でその方法を実施できることを確認します。一方、試験所独自の方法、規格外の方法、変更を加えた方法などについては、意図した用途に適していることを示す妥当性確認が必要です。

測定不確かさ

定量的な測定結果には、設備、標準物質、環境、試料調製、担当者などに由来するばらつきが含まれます。特に規制値や仕様値に近い結果について適合・不適合を判断する場合、測定不確かさや採用する判定ルールが判断へ影響することがあります。

結果の妥当性の確保

試験所は、測定を実施して報告書を発行するだけでなく、結果の妥当性を継続的に監視します。標準物質、管理試料、ブランク、重複試験、技能試験、試験所間比較などが、そのための代表的な手段です。

公平性と機密保持

試験結果が、顧客、営業部門、関連会社、経営上の利害などによって不当に影響されないようにする必要があります。また、試料、配合、図面、開発情報、試験結果など、顧客から受領した情報を適切に保護することも重要です。

ISO/IEC 17025は、一つの結果が絶対に正しいことを保証する規格ではありません。信頼できる結果を継続的に生み出す能力と仕組みが整い、運用されているかを第三者が評価するための基準です。


COMPARISON

3.ISO 9001との違い

ISO/IEC 17025は、ISO 9001と混同されることがあります。両者は品質に関係する国際規格ですが、目的と評価対象が異なります。

項目 ISO 9001 ISO/IEC 17025
主な対象 業種を問わない組織 試験所・校正機関
主な目的 品質マネジメントシステムの構築、維持、改善 試験・校正を実施する能力、公平性、一貫した運営の確認
主な評価対象 組織全体の業務プロセスと品質管理 試験・校正活動と、それを支える技術・運営体制
人員の力量 担当業務に必要な力量を管理 試験・校正活動ごとの具体的な力量を管理
試験方法 個々の試験方法の技術的妥当性を直接評価する規格ではない 方法の選定、検証、妥当性確認を要求
設備・測定資源 製品・サービスの適合に必要な範囲で管理 結果への影響を踏まえて技術的に管理
計量トレーサビリティ 必要な場合に測定資源を管理 試験・校正活動に応じた技術要求として扱う
測定不確かさ 個々の試験結果について一律に評価する規格ではない 試験・校正活動に応じて評価
一般的な第三者評価 マネジメントシステム認証 試験所・校正機関の認定
主に示すもの 組織が品質を安定的に管理する仕組み 特定の試験・校正を実施する技術的能力

ISO 9001は、組織が品質マネジメントシステムを確立し、維持し、継続的に改善するための要求事項を定めています。ISO/IEC 17025は、試験・校正結果を生み出す技術的能力と運営を対象としています。

したがって、ISO 9001認証を取得している試験機関であっても、それだけで個々の試験方法に関する技術的能力が第三者によって確認されていることにはなりません。

両規格は優劣を比較する関係ではありません。組織全体の品質管理と、試験・校正業務の技術的能力を、それぞれ異なる観点から支えています。

なお、2026年8月3日時点ではISO 9001:2015が現行規格ですが、2024年に気候変動に関する追補が発行され、次期版は2026年9月の発行が予定されています。本記事の比較表は、現行のISO 9001:2015を基準としています。


ACCREDITATION

4.「ISO/IEC 17025認定」とは何を意味するのか

ISO/IEC 17025については、一般に「認証」ではなく「認定」という用語を使います。

認定機関は、ISO/IEC 17025を基準として試験所・校正機関を審査し、特定の試験・校正を実施する能力があるかを評価します。ISOも、認定機関が同規格を試験所の評価・認定基準として使用すると説明しています。

ここで注意すべきなのが、「ISO/IEC 17025に準拠している」という自己説明と、第三者による正式な認定を受けていることは同じではないという点です。

「準拠」は、試験所がISO/IEC 17025を参考にして運営しているという意味で使われることがあります。しかし、その表現だけでは、第三者によって技術的能力が審査されたことまで示すとは限りません。

企業が第三者評価を必要とする場合には、正式な認定を受けているか、その認定が現在も有効か、さらに依頼する試験が認定範囲に含まれているかを確認する必要があります。


SCOPE

5.最も重要なのは「認定範囲」

ISO/IEC 17025認定で最も重要な確認事項は、認定範囲(Scope of Accreditation)です。

認定は、試験所のすべての業務へ一律に与えられるものではありません。特定の試験、校正、方法、対象、測定範囲、実施拠点などについて、その能力が認められます。

認定範囲に記載される主な情報

試験または校正の対象

試験項目・測定項目

試験方法や規格番号

対象材料・製品

測定範囲

実施する施設・所在地

例えば、ある試験所がISO/IEC 17025認定を取得していても、そこで実施するICP-MS分析、GC-MS分析、引張試験、耐候性試験のすべてが認定範囲内とは限りません。

同じ分析装置を使う試験であっても、対象材料、測定対象、試験方法、実施拠点が異なれば、認定範囲外となる可能性があります。

KEY QUESTION

今回依頼する試験が、対象、方法、項目、測定範囲、実施拠点を含めて認定範囲に入っているか。

企業が確認すべきなのは、「その試験所がISO/IEC 17025認定を受けているか」だけではありません。

認定範囲内の試験と認定範囲外の試験が、同じ見積書や報告書に含まれることもあります。そのため、依頼時点で両者の区別を確認する必要があります。


REGULATORY UPDATE

6.REACH規則のSVHCでは、認定範囲の「更新状況」にも注目する

環境規制分析では、現在の認定範囲だけで試験機関を評価しきれない場合があります。

代表的な例が、EU REACH規則に基づくSVHC候補リストです。

ECHAは、REACH規則第59条に基づき、認可対象候補となる高懸念物質の候補リストを公開・更新しています。候補リストへの収載により、REACH規則第7条、第31条、第33条などに基づく義務が生じる場合があります。

2026年2月4日には2物質が追加されました。ECHAの決定文でも、同日付で候補リストを更新することが明記されています。

一方、ISO/IEC 17025の認定範囲は、規制対象物質が追加された日に自動的に更新されるものではありません。

新しい物質や方法を認定範囲へ追加するには、試験所側で方法を導入し、必要な検証や品質管理体制を整えたうえで、認定範囲の拡張に必要な審査を受けることになります。

したがって、規制上の追加時期と認定範囲への反映時期には、一定の時間差が生じる可能性があります。

最新物質が認定範囲に記載されていないという理由だけで、その試験所に分析能力がないと判断することはできません。

長期的に利用する試験機関を評価する際には、次の点が判断材料になります。

一つ前までの追加物質について認定範囲を取得しているか

過去の物質追加時に継続して認定範囲を拡張してきたか

最新追加物質について認定範囲の拡張を予定しているか

認定取得前の試験について、方法の検証と結果の品質管理をどのように行っているか

認定範囲内と認定範囲外の結果を、報告書上で明確に区別しているか

過去の追加物質まで継続して認定範囲を広げている試験所であれば、変化する規制へ対応する仕組みを維持している可能性があります。

ただし、過去の認定取得履歴は、将来の認定取得を保証するものではありません。TICnology Japanでは、認定範囲の更新履歴を、最新項目への対応意思や実行体制を見極めるための一つの判断材料と考えます。

なお、認定範囲の記載方法は、認定制度、試験分野、試験方法によって異なります。個別物質が列挙される場合もあれば、分析方法や対象群を単位として記載される場合もあります。

物質名の有無だけで判断せず、認定証と認定範囲の記載内容を試験機関へ確認することが必要です。


FIT FOR PURPOSE

7.認定範囲内でも、試験目的への適合性は別に確認する

ISO/IEC 17025認定は重要ですが、認定範囲内の試験であれば、あらゆる目的に使用できるわけではありません。

同じ物質を測定する場合でも、次の条件によって結果の意味が変わります。

対象材料

試料の採取方法

前処理、抽出、分解方法

測定対象となる化学形態

使用する分析装置

定量下限

適用する規格や公定法

適合・不適合の判定ルール

クロム分析の例

「クロムを測定する」という依頼でも、総クロムと六価クロムでは測定対象が異なります。総クロムの測定結果だけで、六価クロムへの適合性を直接判断することはできません。

PFAS分析の例

特定のPFASを個別に定量する方法、総有機フッ素などを用いるスクリーニング、対象物質を広く探索する方法では、得られる情報と使用目的が異なります。

したがって、次の二つは別々に確認する必要があります。

✓ 依頼する試験がISO/IEC 17025の認定範囲に含まれているか

✓ その試験方法が今回の規制、顧客要求、品質判断の目的に適しているか


CHECK POINTS

8.企業が試験機関を選ぶ際の確認ポイント

企業が試験機関を選定するときは、価格やブランドだけでなく、少なくとも次の事項を確認する必要があります。

1.正式な認定の有無

「ISO/IEC 17025準拠」という表現だけでなく、第三者による正式な認定を受けているかを確認します。

2.認定範囲

依頼する試験の対象、項目、方法、測定範囲、実施拠点が認定範囲に含まれているかを確認します。

3.認定範囲の更新状況

規制が継続して更新される分野では、過去の追加項目まで継続的に認定範囲を拡張しているかを確認します。最新項目が未取得の場合は、取得予定、審査状況、試験方法の検証状況などを確認することが有効です。

4.試験方法の適合性

規制、公定法、顧客仕様、製品規格など、今回の目的に合った方法が使用されるかを確認します。

5.定量下限と測定範囲

規制値や顧客基準を判断するために十分な定量下限と測定範囲を備えているかを確認します。

6.対象材料への専門性

樹脂、金属、塗料、電子部品、食品など、対象材料によって適切な前処理や妨害成分への対応は異なります。分析項目だけでなく、対象材料に関する経験や専門性も重要です。

7.報告書の内容

試験方法、結果、単位、定量下限、対象試料、認定範囲内外の区別など、目的に必要な情報が記載されるかを確認します。

8.技術相談と変更管理

規制改正、試験規格の改定、材料変更が生じた場合に、適切な説明や提案を受けられるかも重要です。

試験料金が安くても、後から方法の不一致や報告内容の不足が判明すれば、再試験、納期遅延、顧客説明のやり直しが生じる可能性があります。

試験機関の選定では、価格、納期、技術力、認定範囲、専門性、規制対応力を総合的に評価する必要があります。


TICNOLOGY JAPAN VIEW

ブランドではなく、エビデンスの成立条件を見る

大手試験機関には、広い拠点網、多言語対応、総合的なサービス、安定した事業基盤などの利点があります。

一方、小規模な専門試験所であっても、特定材料や特定試験について深い専門性を持ち、適切な認定範囲を取得している場合があります。

したがって、試験機関の知名度や企業規模だけで、試験結果の価値を判断することには限界があります。

信頼できるエビデンスを構成する主な条件

ISO/IEC 17025による正式な認定

依頼する試験を含む適切な認定範囲

目的に適した試験方法

対象材料に関する専門性

規制更新への継続的な追随力

特にSVHCのように対象が継続的に追加される分野では、最新項目が認定範囲に入っているかだけでなく、それ以前の追加項目について継続的に認定を取得してきたかが、試験所の運用姿勢を判断する材料になります。

認定は、取得した時点で完結するものではありません。市場、規制、試験技術の変化に応じて、能力を維持し、必要な認定範囲を更新していくことが重要です。

TICnology Japanでは、試験所のブランドを選ぶことよりも、企業が必要とするエビデンスの成立条件を明確にし、その条件に合う試験所と試験方法を選定することが重要だと考えます。

CONCLUSION

まとめ

ISO/IEC 17025は、試験所・校正機関の能力、公平性、一貫した運営に関する国際規格です。

その評価対象は設備だけではありません。人員の力量、試験方法、施設環境、計量トレーサビリティ、測定不確かさ、結果の妥当性確認、公平性、機密保持、記録管理など、試験結果が生み出される仕組み全体を対象としています。

ただし、認定は試験所のすべての活動へ一律に与えられるものではありません。企業は、依頼する試験が認定範囲に含まれているかを確認する必要があります。

さらに、REACH規則のSVHC候補リストのように対象が更新される分野では、規制上の追加と認定範囲への反映に時間差が生じる場合があります。そのため、最新項目の記載だけでなく、過去の追加項目への対応実績や、今後の認定範囲拡張に向けた方針も確認することが重要です。

試験結果の価値は、試験機関の知名度だけで決まるものではありません。

どの能力、どの方法、どの認定範囲、どの品質管理のもとで得られた結果なのか。

それを確認することが、信頼できるエビデンスを選ぶ第一歩となります。

本記事について

本記事は、2026年8月3日時点で確認できるISOおよび欧州化学品庁(ECHA)の公開情報をもとに、ISO/IEC 17025の基本的な考え方と、試験機関選定における実務上の留意点をTICnology Japanが独自に整理・分析したものです。

ISO/IEC 17025認定は、個別の法規制、顧客仕様、製品認証制度への適合や、特定の試験報告書の受入れを一律に保証するものではありません。個別案件では、認定範囲、試験方法、対象材料、定量下限、適用規制および顧客要求を確認する必要があります。

SVHC追加物質への認定範囲拡張に関する記述には、TICnology Japanの分析・考察が含まれます。過去の認定取得実績は、将来の認定取得を保証するものではありません。

本記事は、特定の試験所、認定機関またはサービスを推奨するものではありません。

情報基準日:2026年8月3日

SOURCES

主な参考資料

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