米国TSCAとは――化学物質規制の仕組みと日本企業が押さえるべき対応

米国市場への化学製品の輸出において、重要な法規制の一つがTSCA(米国有害物質規制法)です。米国では、化学物質の製造・輸入に対する事前審査に加え、既存化学物質のリスク評価や使用制限など、幅広い規制が設けられています。

昨今は、PFASをはじめとする化学物質への規制対応も注目されており、企業には対象物質の確認だけでなく、製品の用途や輸入形態に応じた適切な対応が求められています。

本記事では、米国環境保護庁(EPA)の公式情報をもとに、TSCAの基本的な仕組み、EU REACHとの違い、米国向け輸出における実務上の確認事項について解説します。

TSCAとは

TSCA(Toxic Substances Control Act)は、1976年に制定された米国の連邦法で、化学物質による人の健康や環境へのリスクを管理するための制度です。

所管するのは米国環境保護庁(EPA)であり、化学物質の製造、輸入、加工、流通、使用、廃棄などに関する規制権限を有しています。

2016年には、フランク・R・ローテンバーグ化学物質安全法によって大幅に改正され、既存化学物質のリスク評価や、新規化学物質の審査制度が強化されました。

なお、食品、医薬品、化粧品、農薬など、他の連邦法による規制対象となる製品については、TSCAの適用から除外される場合があります。

TSCAの主要な規制制度

TSCAには複数の規制制度があり、企業の事業内容や取り扱う化学物質によって適用される要求事項が異なります。

規制区分 主な内容
Section 4化学物質の試験・情報提出要求
Section 5新規化学物質の事前審査、重要新規利用の届出
Section 6既存化学物質のリスク評価およびリスク管理
Section 8化学物質に関する情報報告・記録保存
Section 13米国輸入時のTSCA適合証明

特に重要なのは、新規化学物質を対象とするSection 5と、既存化学物質のリスク管理を定めるSection 6です。

また、Section 8に基づく報告義務は、個別の化学物質や事業活動に応じて適用されます。

TSCAインベントリーと新規化学物質の管理

TSCAインベントリーは、米国で商業的に製造・輸入された既存化学物質を収載するリストです。

原則として、対象となる化学物質がインベントリーに収載されていない場合、その物質はTSCA上の新規化学物質として扱われます。

新規化学物質を米国で製造または輸入する場合、適用除外等に該当しない限り、原則として開始の少なくとも90日前にEPAへ製造前届出(PMN)を提出し、必要な審査を受ける必要があります。

また、既存化学物質であっても、EPAが重要新規利用規則(SNUR)を定めている場合には、対象となる用途について別途届出が必要になることがあります。

Active/Inactive区分と非公開物質

TSCAインベントリーでは、既存化学物質について、米国での商業活動状況に応じたActive(活動中)とInactive(非活動)の区分が設けられています。

Inactiveに指定された化学物質を米国で再び製造・輸入または加工する場合には、原則として事前にEPAへの所定の届出が必要です。

また、インベントリーには、営業秘密として具体的な化学物質名が公開されていない物質も含まれます。

インベントリー確認時の注意点

EPAは2026年7月版の公開インベントリーを提供していますが、公開情報だけでは特定の物質の収載状況を確定できない場合があります。そのような場合には、EPAへの正式な照会手続などを通じて確認することができます。

なお、インベントリーへの収載は、その化学物質のあらゆる用途が無条件に認められていることを意味するものではありません。

既存化学物質のリスク評価と使用制限

TSCA Section 6では、EPAが既存化学物質のリスクを評価し、必要に応じてリスク管理措置を講じます。

リスク管理措置には、特定用途の制限・禁止、製造や加工に関する条件、作業者保護措置などが含まれます。

対象物質や規制内容は個別に定められるため、企業は物質名だけでなく、用途、製造・輸入形態、適用時期などを確認する必要があります。

例えば、同じ化学物質であっても、使用される工程や製品の種類によって、適用される規制内容が異なる場合があります。

米国向け輸出で確認すべき事項

日本企業が米国へ化学製品を輸出する際には、米国側の輸入者と連携し、対象製品に適用されるTSCAの要求事項を確認することが重要です。

特に、次の点が実務上の確認事項となります。

  • 化学物質の特定:CAS登録番号、成分情報、用途などの確認
  • インベントリー収載状況:既存化学物質か新規化学物質か、Active/Inactive区分の確認
  • 個別規制の確認:Section 5の規制、Section 6の使用制限などの確認
  • 輸入形態の確認:化学物質、混合物、成形品の区分
  • 輸入時の適合証明:Section 13に基づく証明の要否と内容の確認
  • 報告義務の確認:Section 8などに基づく情報報告・記録保存の要否

輸入時のTSCA適合証明

米国税関・国境警備局(CBP)の制度では、対象となる化学物質の輸入について、TSCAへの適合を示すポジティブ証明、またはTSCAの対象外であることを示すネガティブ証明が求められる場合があります。

ポジティブ証明(Positive Certification)
輸入する化学物質が適用されるTSCAの規則や命令に適合していることを申告するものです。

ネガティブ証明(Negative Certification)
輸入する化学物質がTSCAの適用対象外であることを申告するものです。

ただし、すべての輸入製品に証明が必要なわけではありません。成形品に含まれる化学物質については、個別規則で要求される場合を除き、通常、Section 13の輸入証明は必要ありません。

また、Section 4やSection 8に基づく試験・報告義務は、Section 13の輸入証明とは別の制度です。輸入証明に直接関係しない場合でも、該当する事業者にはこれらの義務が適用される可能性があります。

したがって、輸入証明の要否だけでTSCA全体への適合性を判断することはできません。

PFASに関する規制動向

TSCAにおいて、特に注目されている分野の一つがPFASです。

EPAは2023年、TSCA Section 8(a)(7)に基づき、過去にPFASを製造・輸入した事業者などを対象とする情報報告規則を制定しました。

この制度では、原則として2011年から2022年までのいずれかの年に対象PFASを製造・輸入した事業者に対し、化学物質の識別情報、用途、製造・輸入量、ばく露、健康・環境影響、廃棄などに関する情報報告が求められます。

報告規則の見直しと適用除外案

EPAは2025年11月、PFAS報告規則の対象範囲を見直す改正案を公表しました。

この改正案には、一定濃度以下のPFASを含む混合物・製品、輸入成形品、不純物、特定の副生成物などに関する適用除外が盛り込まれています。

ただし、これらは改正案として提示された内容であり、確定した適用除外として扱うことはできません。

2026年の報告期限変更

EPAは2026年4月、PFAS報告規則における報告期間の開始時期を変更する最終規則を公表しました。

報告開始時期の変更

新たな報告開始日は、今後の改正最終規則の発効日から60日後、または2027年1月31日のいずれか早い日とする仕組みです。

報告期間の長さや最終的な提出期限については、後続の規則改正によって定められる部分があるため、最新のEPA公表情報を確認する必要があります。

このように、PFAS規制では、対象物質の確認に加えて、報告対象期間、適用除外の有無、改正規則の確定状況、報告期限を区別して管理することが重要です。

EU REACHとの違い

TSCAとEU REACHは、いずれも化学物質によるリスクを管理する制度ですが、規制の仕組みには違いがあります。

比較項目 米国TSCA EU REACH
規制当局米国EPA欧州化学品庁(ECHA)および加盟国当局
新規化学物質原則として製造・輸入前にEPAが審査原則として年間1トン以上の物質に登録義務
既存化学物質EPAによるリスク評価と規制措置登録・評価・認可・制限の制度
成形品への対応個別規則に応じて適用SVHC情報伝達等の義務
輸入時の手続対象に応じたTSCA適合証明REACH上の登録・情報伝達等の確認

両制度は規制対象、届出・登録要件、情報伝達の仕組みが異なります。

特にTSCAでは、インベントリー収載状況に加えて、重要新規利用規則や個別のリスク管理措置を確認することが重要です。

そのため、EU REACHに対応している製品であっても、米国向けに輸出する場合にはTSCAへの適合性を別途確認する必要があります。

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TSCA対応に求められる規制情報と製品情報の一体管理

米国TSCAは、化学物質の収載状況を確認するだけで対応が完結する制度ではありません。

実際には、物質の特定、用途、製造・輸入形態、個別規制の適用状況などを総合的に確認することが求められます。

特に、PFASなど規制の見直しが進む分野では、最新の法規制情報を把握するとともに、サプライチェーンを通じた成分情報の収集と管理が重要になります。

こうした対応において、第三者試験機関による化学分析は、特定物質の含有状況を確認するための有効な手段の一つです。ただし、分析結果だけでTSCA全体への適合性を判断できるわけではなく、規制対象や用途に応じた法規制上の評価も必要です。

また、製品の成分や用途、規制内容は時間とともに変化するため、一度の確認で終えるのではなく、情報を適切に更新する仕組みも欠かせません。

規制情報の継続的な把握、製品情報の適切な管理、必要に応じた第三者評価を組み合わせることが、米国市場における確実な化学物質管理につながります。

こうした取り組みは、法規制への対応にとどまらず、サプライチェーンの透明性を高め、取引先からの信頼と企業の国際競争力を支える基盤となるでしょう。

出典・参考資料

  1. 米国環境保護庁(EPA)「Summary of the Toxic Substances Control Act」
  2. 米国環境保護庁(EPA)「About the TSCA Chemical Substance Inventory」
  3. 米国環境保護庁(EPA)「How to Access the TSCA Inventory」
  4. 米国環境保護庁(EPA)「TSCA Inventory Notification (Active-Inactive) Rule」
  5. 米国環境保護庁(EPA)「TSCA Requirements for Importing Chemicals」
  6. 米国環境保護庁(EPA)「TSCA Section 8(a)(7) Reporting and Recordkeeping Requirements for Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances」
  7. 米国環境保護庁(EPA)「Update on Reporting Deadline for TSCA PFAS Reporting Rule」

※本記事は米国EPAの公式公開情報を中心に、2026年10月時点の規制情報をもとに作成しています。

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